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STATEMENT

量子物理学の観点から、存在や実在をテーマに半導体を用いた作品を制作している。

作品に半導体を使用する理由は2つある。

1つは、半導体は量子論を提示するのに最も身近な素材であるということである。
半導体の性質や内部で起こっている現象は、量子物理学によって理解され発展してきた歴史がある。

量子物理学は原子や素粒子など極微なスケールでの物質の振る舞いを記述する物理学である。量子論は現代物理学の基礎となる最も重要な理論であり、化学をはじめとし生物学や医療、科学技術に広く用いられている。
にもかかわらず、量子の世界で発現する数々の現象は我々の直感に反しており、非常に奇妙である。量子力学の発見から約100年を経た現在においても、その解釈は課題として残されたままであり、哲学を巻き込んで様々な議論が行われている。

私は高校時代にこの量子力学に興味を持ち、大学でその理論を専攻し学んだ。このことが作品の原点となっており、量子の世界が我々に投げかける存在や実在についての問いを、作品を通して提示したい。

半導体を使用するもう一つの理由は、半導体が現代の情報化社会の基盤となっていることである。

スマホはもちろん、PC、家電などほぼすべての電子機器に半導体は使用されており、ATMや電車の運行、インターネット・通信などの社会インフラも支えている他、高速・大容量通信やSNSの普及に至るまで、半導体は時代を象徴する。

制作に用いる半導体シリコンウェーハは、数百~数千個の同じ回路パターンが繰り返し書き込まれている(本来はこれを裁断し1つ1つの半導体チップを得る)。これを既製品としてそのまま使用したり、回路が書き込まれた半導体の破片を無数に並べることで、アンディ・ウォーホルが同じモチーフを繰り返すことで大量消費社会を反映したように、現代の情報化社会による情報の大量消費、その表面化や形骸化を反映することを意図している。

美術とは別分野の物理学を作品の柱の一つに設定することで、美術の概念の拡張も狙いの一つである。
自然哲学や思想としての科学(特に物理学はルーツを辿ればあくまでも自然哲学で、この世界の仕組みを紐解く思想であり、その道具として数式や実験が使われるにすぎない)と美術の相互作用という文脈で時代を反映させた作品を私は提示したい。

量子の世界は我々の五感で知覚することはできず、馴染みがないように思うかもしれないが、科学技術に応用され現代社会を支えている他、あらゆる物体、自然、我々の身体など世界の全てが量子で構成されている。半導体を使うことで量子物理学の観点を提示し、鑑賞者の世界の見え方が変わるような装置として作品が機能しつつ、時代を反映するものであることを目指している。

 

 

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